あいにく私が住んでいる名古屋は曇天で、太陽を拝むことができませんでした。ずっと空を眺めていれば、雲の隙間から欠けている太陽を観測することも可能だったようですけれど、そんな根気はなく……。
さて。
皆既日食と聞いて、古くからのSFファンの多くは式貴士の短編「怪奇日蝕」を想起されたのではないでしょうか。私もその1人です。
一昨日、宮崎惇さんのことを書きました。私は商売柄、たくさんの作家の方々と交流があります。先輩と後輩だったり同年代だったり、それぞれ付き合い方は違いますけれど、基本的には作家と作家の関係です。しかし宮崎さんとはそうではなく、作家と愛読者という関係でした。
実は式貴士さんとも、そんな関係だったのです。
SF専門誌「奇想天外」1977年9月号に掲載された短編「カンタン刑」を読んで、熱烈なファンになりました。ほんと、すごい衝撃を受けたのですよ。>「カンタン刑」
緊張しましたねえ。嬉しかったですねえ。憧れの式さんとお話ができ、持参した処女短編集『カンタン刑』にサインもいただきました。それが右の写真で、「未来の“式貴士後援会々長”高井信様」なんて書かれています。私もその気満々だったのですが、タイミングが悪かったというか、数ヵ月後に私自身も「奇想天外」でデビューするということになり、ファンクラブ結成は幻のものとなってしまいました。式さんには申しわけなかったと思います。
もちろん個人的なお付き合いは続き、しょっちゅう会っていましたし、新宿のゴールデン街へ連れていってもらったことも何度かあります。ほんと、お世話になりましたねえ。
式さんも宮崎さんと同様、若くして亡くなられ、何とも言えない想いです。 通常でしたら、ここで著作リスト、となるわけですが、式貴士研究サイト「紅星人」や「式貴士と私(仮)」に詳細な書誌データが掲載されていますので、生前に発行された単行本(ハードカバー)だけ紹介することにします。
『カンタン刑』CBS・ソニー出版(79)
『イースター菌』CBS・ソニー出版(79)
『連想トンネル』CBS・ソニー出版(80)
『吸魂鬼』集英社(80)
『虹のジプシー』CBS・ソニー出版(80)
『ヘッド・ワイフ』CBS・ソニー出版(81)
『怪奇日蝕』CBS・ソニー出版(81)
『なんでもあり』CBS・ソニー出版(82)
『天虫花』CBS・ソニー出版(83)
『アイス・ベイビー』CBS・ソニー出版(84)
以上です。
式さんの短編は、星新一さんも絶賛されていました。処女出版の『カンタン刑』は、初版からわずか15日後に出た再版では、星さんの推薦帯になっています。
* * *
式さんが仕事の内容によって、さまざまなペンネームを使い分けていたことは有名です。私も、目につけば買っていました。たとえば、以下のような本です。
そうそう。『女教師 犯す』には面白い趣向が凝らされています。カバー袖の推薦文を書いているのが「SF作家・式貴士」なんですね。
というわけで――
今回の皆既日食で、久しぶりに式さんのことを思い出しました。日食は観測できませんでしたが、よかったと思います。
先に紹介した2つのサイトは、本当に素晴らしいです。式さんのファンとして、こういう方がおられることは非常に嬉しいですね。
式貴士を読んだことがない方がいらっしゃいましたら、こういったサイトを参考にして、1冊でも読んでみてください。
おっと。最後に書くようなことでもないですが、もちろんショートショートも書かれています。
【追記】12月7日
昨日、この本を古本屋で見かけたので購入しました。レアな本のようですから、存在を知って半年足らずでゲットできてしまったのは、かなりの幸運ではないかと思います。もちろん、悩むこととなく気楽に買える金額でした。
書影を掲載しておきます。
蘭光生名義の最初の本は『SM博物館』三崎書房(72)のようです。この本は昨年、河出i文庫で再刊されました。