昨日の続きです。
私は異世界を舞台にした冒険小説(要するにSFやファンタジー)が大好きで、手当たり次第に読んできましたが、現実世界を舞台にした冒険小説はあまり読んでいません。好き嫌いというより、そこまで読書範囲を広げる余裕がなかったというのが正解でしょう。
矢野徹『カムイの剣』は後者で、そんな私が読もうと思った理由はただひとつ――星新一が解説で激賞してたからです。
そういう理由で読み、「うわっ。面白い!」となった冒険小説がもう1冊あることを思い出しました。生島治郎『黄土の奔流』です。
もともとはカッパ・ノベルスで刊行された本(1965年刊)ですが、私が読んだのは講談社文庫版(77)です。もちろん解説は星新一。
>戦後に書かれたエンターテインメントのベストテンを選ぶことがなされたら、
>まちがいなくそのなかに入ると思う。
大好きな星新一がここまで推す作品を読まないようでは、星ファン失格です。いや、星新一の鑑賞眼を信じていたというのが大きいですね。それまでに星新一の勧める本を何冊も読み、裏切られたことはありませんでしたから。
星新一推薦本の多くは「期待通りの面白さ」でしたが、なかには「期待を遥かに上回る面白さ」もあります。『カムイの剣』や『黄土の奔流』は、まさに「期待を遥かに上回る面白さ」なのでした。
以下の書影は――
生島治郎『黄土の奔流』カッパ・ノベルス(65)
生島治郎『黄土の奔流』講談社文庫(77)*解説・星新一
生島治郎・原作、黒咲一人・作画『黄土の奔流』集英社・ヤングジャンプ・コミックス・ベアーズ(92)

ほか、各社の文庫本で読めます。
以下、余談です。
生島治郎の自伝的小説『浪漫疾風録』講談社(93)、『星になれるか
浪漫疾風録 第二部』講談社(94)もお勧めです(いずれも、のちに講談社文庫に収録)。『星になれるか』では『黄土の奔流』にも触れられていて、最初の仮題は『豚の毛』だったとか(笑)。
また、以下のようにも書かれています。
このタイトルは、はじめ『黄土
(おうど)の奔流』と呼ばれていたが、のちに『黄土
(こうど)の奔流』と呼ばれるようになった。
『オウドの奔流』じゃ汚いよと星新一に言われてからだった。なるほど、『嘔吐の奔流』と読めば汚らしい。
そういうことを言った星新一は、しかし、この作品が気に入ってくれたらしく、のちに文庫になるとき、自分に解説を書かせてくれないかと言ってくれた。