NASAが何やら発表すると聞いて、わくわくしていた人も多いと思います。思いっ切り肩透かしを食わされましたね。
何年か前、こんなショートショートを書いたことを思い出しました。
* * *
友だち「ねえ、あなた。ようやく良夫に友だちができたらしいのよ」
一週間の出張から帰ってきた良太郎に、妻が嬉しそうに言った。
良夫というのは、良太郎たちの一人息子で、現在小学一年生である。
一ヶ月ほど前、良太郎は念願のマイホームを購入し、都心のマンションから郊外の一戸建てに引っ越した。
それに伴い、良夫は転校したのだが、まだ新しいクラスメートに馴染めず、放課後、いつもひとりぽっちで淋しそうにしていたということは、良太郎も妻から聞いている。
「へえ、よかったじゃないか。クラスメートかい?」
「ううん、そうじゃないらしいの。ほら、近くに川があるでしょ。あそこの河原で知り合ったらしくて」
「ふーん。河原でねえ。で、どんな子なんだい?」
「あたしも会ったことがないから知らないんだけど、とーっても意志が固い子なんだって」
「ははは。変な言い方だなあ。頑固とか、ほかに言い方があるだろうに」
「ほんと。でも、わがままな良夫と、よく仲よくできると思うわ。ふふっ」
「そうだよなあ。それで、ご両親の職業は?」
「お医者さんみたいよ」
「ほう。医者か。親がしっかりしているなら、その子も大丈夫だろう」
「ええ、そうね」
「あ、そう言えば、良夫はどうした? もう六時だぞ」
「それが、まだ帰ってきてないの。友だちができてからというもの、あの子ったら、学校から帰ってくると、すぐに出かけちゃって、夕ごはんの時間まで帰ってこないのよ」
「へえ。その友だちのこと、よっぽど気に入ってるみたいだなあ。今度、うちに連れてくるように言えば?」
「そうね。どんな子なのか、気になるし……」
両親が話し合っているころ――
夕暮れ迫る河原で、良夫はその友だちと遊んでいた。しかし、遠くから眺めただけでは、良夫が一人で遊んでいるとしか見えないだろう。
良夫の遊び相手は、河原にごろごろ転がっている巨大な石のひとつだった。いや、正確に言うと、ただの石ではない。知性を有する石――珪素型生命体なのである。
もちろん良夫は母親に嘘をついていたわけではなかった。「どんな子なの?」と問われて「硬い石」と答え、「ご両親は?」と問われて「石」と答えただけなのだから。
初出:「赤き酒場」第347号(2006年11月20日発行)

【追記】
半村良ファンクラブ〈続・半村良のお客になる会〉の会報「赤き酒場」には、『まだまだショートショートで日本語を遊ぶのだ』と題して、ショートショートを連載させていただきました。第334号(2005年10月号)から第349号(2007年1月号)まで、計16回。
連載が終わる少し前、掲載済みの作品+アルファを収録した冊子『ショートショートで日本語をあそぼう2』を作りました。2006年12月31日発行。B5判、24ページ。全23編収録。もちろん、「友だち」も収録されています。
いや実は、この冊子を作ったこともすっかり忘れていまして、山本さんのコメントで思い出したのでした(苦笑)。