日本ショートショートの黎明期――1960年代の半ばから後半にかけて、三一書房は日本ショートショート界に大きな足跡を残しました。『ショートショートの世界』では簡単に書きました(88ページ)が、もう少し詳しく紹介しておくことにします。
以下、発行順に――
◎福島正実編『SFエロチックス』三一新書(64)
日本初ではありませんが、最初期のショートショート・アンソロジーです。全24編収録。
この本が好評だったのか、福島正実は同趣向&似たようなタイトルのアンソロジーを秋田書店からも出しています。『SFエロチック
ミステリ』サンデー新書(66)、『SFエロチックの夜』サンデー新書(67)、『SFエロチック
あらかると』サンデー・ノベルズ(67)の3冊。いずれもショートショート・アンソロジーを意図して編まれたものではないようで、少々長めの作品も収録されていますが、ほとんどショートショート・アンソロジーと言っていいでしょう。
秋田書店の3冊はのちに改題再編集されて、旺文社文庫に収録されています。
『SFエロチック
ミステリ』→『SFミステリ傑作選』旺文社文庫(84)
『SFエロチックの夜』→『SFファンタジー傑作選』旺文社文庫(84)
『SFエロチック
あらかると』→『SFロマン傑作選』旺文社文庫(84)


◎福島正実『SFハイライト』三一新書(65)
福島正実と言うと、「SFマガジン」初代編集長、そしてSFやミステリの翻訳家としての業績がクローズアップされがちですが、数多くのショートショートも書きました。そんな福島正実の初めてのショートショート集が本書です。そこかしこにコラムが挿入されているのも、いかにも福島正実らしくて、楽しいです。
◎星新一『エヌ氏の遊園地』三一新書(66)
星新一の9冊目のショートショート集です。多くの作家がようやく初めてのショートショート集を上梓しようとしているころ、星新一はこれだけの数のショートショート集を出していたわけですね。まさに、偉大なる先駆者としての風格を感じます。のちに講談社ロマンブックス(71)、講談社文庫(71)、新潮文庫(85)に収録。

◎筒井康隆『にぎやかな未来』三一書房(68)
筒井康隆の初めてのショートショート集です。のちに角川文庫(72)、徳間書店(76)で再刊されていますが、三一書房版から「姉妹」「ラッパを吹く弟」「衛星一号」「ミスター・サンドマン」「時の女神」「模倣空間」「白き異邦人」を割愛。また、三一書房版は4つのパートに分割され、それぞれのパートに「解説」と「あとがき」が添えられています。

◎都筑道夫『いじわるな花束・犯罪見本市』都筑道夫異色シリーズ6(68)
都筑道夫の初めてのショートショート集は『いじわるな花束』七曜社(62)ですが、本書はその再刊です。〈都筑道夫異色シリーズ〉全6巻の最終巻として『犯罪見本市』とともに収録されました。ちなみに、本書自体は文庫化されていません。


◎眉村卓『ながいながい午睡』さんいちぶっくす(69)
眉村卓の初めてのショートショート集です。これまた、本書自体は文庫化されていません。
◎豊田有恒『自殺コンサルタント』さんいちぶっくす(69)
豊田有恒の初めてのショートショート集です。ハヤカワJA文庫(73)、角川文庫(75)として文庫化されていますが、いずれも三一書房版の冒頭の4編が割愛されています。

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とまあ、かくも大きな貢献をしてくれた三一書房ですが、1970年以降となりますと、目につくのは、1995年刊の眉村卓『発想力獲得食』、1998年刊の松岡悟『騎乗停止
競馬ショート・ミステリー』くらいでしょうか。
ちょっぴり淋しい気分になります。