『ショートショートの世界』でSF同人誌「宇宙塵」を紹介する際、私は以下のように書きました(114~115ページ)。
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――前略――無名のファンライターのなかにも、素晴らしいショートショートを書いていた人がたくさんいます。
なかでも特筆すべきは戸倉正三でしょう。あ、いや、戸倉正三の場合、「SFマガジン」「ミステリマガジン」「ヒッチコックマガジン」といった商業誌にも作品を発表していますから、無名のファンライターと言っては失礼なのですが、まあ、プロ作家かファンライターかという議論はさておき――

戸倉正三が「宇宙塵」に発表していた作品群は、これぞショートショート、という感じで、質、そして量の問題も含め、私は非常に高く評価しています。戸倉正三には『どこにもある・どこにもない話』(柳正堂書店67)という、おそらく自費出版に近い形で出版されたと思われるショートショート集があるのですが、残念ながら入手は困難です。私にできることは、せめて本書に書影を掲載することだけです。
これまたファンライターと言っては失礼ですが、川島ゆぞも「宇宙塵」に洒落たショートショートや短編を発表していました。それらのほとんどは『タイムましん』(ユニバース出版社97)という作品集に収録されています。
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戸倉正三も川島ゆぞも、限りなくプロ作家に近くて、プロと言ってもいいのかもしれないのですけれど、そうとは言い切れない存在です。

『どこにもある・どこにもない話』にも『タイムましん』にも、「宇宙塵」や「NULL」といったSF同人誌に発表された作品が多数収録されていて、中学生のころからSFファンダムで遊んできた私は、こういう本を見ると無性に嬉しくなってしまいます。しかもショートショートとなると、なおさらです。
『ショートショートの世界』刊行後、同じようなショートショート集を3冊入手しましたので紹介しようと思いますが、その前に、お詫びと訂正をさせていただきます。
>戸倉正三の場合、「SFマガジン」「ミステリマガジン」「ヒッチコックマガジン」といった
>商業誌にも作品を発表しています
と書きましたが、これは間違いで、戸倉正三が「ミステリマガジン」に寄稿した事実はありません。今となっては、なぜこんなことを書いたのか定かではないのですが、私の勝手な思い込みから、つい筆が滑ってしまったのだと思います。いいかげんなことを書いて、申しわけありませんでした。

さて、気を取り直して――
まずは天瀬裕康『停まれ、悪夢の明日』近代文藝社(88)です。この本は『ショートショートの世界』刊行時には知りませんでした。いや正確に言うと、存在自体は知っていましたが未入手で、内容を知らなかったのです。
入手して著者の本名が「渡辺晋」と知り、大袈裟な表現ではなく、のけぞりました。ビッグネーム・ファンとして、その名は私も若いころからよく知っていたからです。「SFマガジン」連載の「空想不死術入門」は本当に楽しく読んだものでした。(ついでに書いておくと、私が初めて印税をいただいた豊田有恒編『日本SFショート&ショート選
ユーモア編』文化出版局(77)には「スカイラブ・ラブ記」が収録されています)
この本には32編収録。SF同人誌に掲載された作品は少ないですが、『どこにもある・どこにもない話』や『タイムましん』と同じ匂いを感じます。『ショートショートの世界』で紹介できなかったのが残念でなりません。

続いては、新居澄人『惑星催眠術』沖積舎(06)――これは『ショートショートの世界』刊行後に出版された本です。著者は1966年生まれ、2005年没。ご遺族が追悼の意味を込めて作られたものです。
著者は石原藤夫主宰のSFファングループ〈ハードSF研究所〉の会員で、この本には石原藤夫が「ユニークな才能を惜しむ」という序文を寄せ、夭逝を悼んでいます。享年39。ほんと、若すぎると思います。
計25編収録。うち15編は〈ハードSF研究所〉の会誌「Hard SF Laboratory」に掲載、10編は「SFマガジン」の〈リーダーズ・ストーリイ〉に入選した作品です。

最後は同人誌ですが、『風の翼
35周年記念 深田亨作品集』創作研究会=北星航路(07)を紹介します。
著者の深田亨は〈星新一ショートショート・コンテスト〉の第4回(1982年)で、「びん」が優秀作に選ばれました(青山章二名義)。それ以前にも、眉村卓編『チャチャ・ヤング ショート・ショート』講談社(72)にも3編が収録されています。超ベテランの書き手なのですね。
新しいところでは、ショートショート作家『ホシ計画』廣済堂文庫(99)や井上雅彦監修『ひとにぎりの異形』光文社文庫・異形コレクション(07)にも寄稿しています。
『深田亨作品集』には42編収録。初出は明記されていませんが、多くは同人誌に掲載されたものと思われます。
以上、3冊を紹介しました。
こういった本はまだまだたくさん出ていることと思います。情報をお寄せいただければ幸いです。